私たち人間の医療では、「輸血が必要になったら血液を用意する」ということを、ごく自然な医療のひとつとして考えているかもしれません。
しかし、猫の医療では少し事情が違います。
大きな出血や重度の貧血、病気や手術などによって、猫にも輸血が必要になることがあります。輸血は、ときに猫の命を支える重要な治療となります。
ところが現在の動物医療では、人医療のように全国規模で血液を安定して供給する仕組みが十分に整っているわけではありません。
日本動物高度医療センター(JARMeC)も、動物の血液を安定的に確保するネットワークがなく、状況によっては飼い主自身がドナーを探さなければならないことがあると説明しています。また、実際に献血ドナー制度を設け、犬や猫のドナー登録を呼びかけている動物病院もあります。
猫の血液は保存できないの?
「猫の血液は保存できない」と聞いたことがある方もいるかもしれません。
厳密には、猫の血液も適切な設備や方法を用いれば一定期間保存することができます。赤血球製剤などでは、採血方法や保存液、管理方法によって数週間保存できる場合もあります。
一方で、猫の採血では「開放式」と呼ばれる方法が使われることも多く、その場合は細菌汚染のリスクなどから長期間の保存には適していません。
国際猫医学会(ISFM)のガイドラインでは、開放式で採取された血液は原則として4時間以内、冷蔵した場合でも24時間以内に使用することが推奨されています。
つまり、
「猫の血液はまったく保存できない」のではなく、人医療のように大量の血液を安定して備蓄し、必要な場所へいつでも供給できる体制を作ることが難しい
というのが、より正確な表現です。
必要になってからドナーを探すことも
こうした事情から、輸血が必要になったその時に、献血へ協力してくれる猫を探すケースがあります。
海外の猫輸血ガイドラインでも、適切なドナーを確保できるかどうかが猫の輸血医療における課題のひとつとして挙げられています。猫の献血は、必要になった時にドナーから採血し、そのまま輸血に使用する「オンデマンド」に近い形で行われることもあります。
日本でも、動物病院が独自に献血ドナープログラムを設けている例があります。
たとえば日本動物高度医療センターや、どうぶつの総合病院 専門医療&救急センターでは、一定の条件を満たす犬や猫について事前のドナー登録を受け付けています。
つまり、「輸血が必要になってから協力してくれる猫を探す」のではなく、健康なうちにドナー候補となる猫を把握しておくことには大きな意味があります。
血液型が同じなら輸血できる?
ここも、とても重要なポイントです。
猫には主にA型、B型、AB型などの血液型がありますが、単に血液型が同じだから安全に輸血できる、というわけではありません。
猫は赤血球に対する自然抗体を持つことがあり、適合しない血液を輸血すると重い輸血反応が起こる可能性があります。
そのため実際の輸血では、血液型の確認だけでなく、必要に応じたクロスマッチ(交差適合試験)や、ドナー猫の健康状態・感染症検査などが重要になります。
最終的に献血が可能か、そしてその血液を輸血に使用できるかを判断するのは獣医師です。
献血できる猫には条件があります
「健康な猫なら誰でも献血できる」というわけでもありません。
年齢、体重、健康状態、ワクチン接種歴、感染症の有無、輸血歴、生活環境など、さまざまな条件を確認したうえでドナーとして適しているかを判断します。
実際の条件は動物病院によって異なり、献血の前には身体検査や血液検査などが行われます。
そのため、「ねこのわ」への登録も、医学的に献血可能な猫であることを保証するものではありません。
だからこそ、「もしもの前」に
輸血が必要になってから、
「協力してくれる猫はいませんか」
と探し始める。
SNSでは、そんな「拡散希望」の投稿を目にすることがあります。
もちろんSNSによって多くの人へ呼びかけられることには大きな意味があります。
でも、命に関わる状況になったその時から探し始めるのではなく、
「もし必要になったら、献血への協力を考えてもいい」
という猫ちゃんと飼い主さんが、あらかじめ地域にいることが分かっていたら。
それだけでも、いざという時の選択肢を増やすことにつながるのではないか。
それが「ねこのわ」の出発点です。
ねこのわは、現在「事前登録」の段階です
「ねこのわ」は現在、献血に協力できる可能性のある猫ちゃんを事前ドナー候補として登録していただく取り組みを行っています。
現時点では、輸血が必要な猫ちゃんと登録された猫ちゃんを実際にマッチングしたり、献血を依頼したりするサービスは提供していません。
また、登録は献血の約束ではありません。
実際に依頼があったとしても、その時の猫ちゃんの体調や生活状況を踏まえて、協力するかどうかは飼い主さん自身が判断するものです。
そして実際に献血できるかどうかは、必ず獣医師による医学的な判断が必要です。
まずは、
「もしもの時なら、協力を考えてもいい」
という猫ちゃんと飼い主さんの輪を、少しずつ広げていく。
そこから始めたいと考えています。

